FC2ブログ

重い重いお客様への再コメント

 事務担当の女性が古びた包袋を持ってやってきた。曰く、「拒絶審決を受けた事件について、審決等取消訴訟(特許法178条)の可能性についてお客様が問い合わせて来たので回答して欲しい」とのことだった。その包袋を渡し終えた後彼女は、「どうせ(お客さんが訴訟提起することは)ないでしょうが、必要であれば上司が『相談にくるように』とのことでした」と言って彼女の席に戻った。
 「確かに審決等取消訴訟はよほどのことがないと提起しないよなぁ」と心の中でつぶやきながら、お客様の問い合わせメールを詳細に見てみた。お客様の質問は、1.審決等取消訴訟を提起して成功する(つまり拒絶審決が取り消される)可能性はどの程度あるか? 2.以前指摘した拒絶査定(審決)の根拠を覆す議論以外の議論はないか? というものだった。
 訴訟提起の可能性は低いとっても何も検討せずに回答するのは不誠実なので、一応これまでのやり取りの記録を読み返そうかと見返しているうちに、自分の気持ちが大きく変わろうとしていることに気づいた。それは、拒絶理由、拒絶査定、拒絶審決と一貫して、審査官(及び審判合議体)の強引な論理付け(本願明細書で、否定している先行技術を主引例として29条違反を維持してきた)に対する反論を無視してきたからである。そして拒絶査定を受けた当時、猛烈に憤慨したことまで思い出して、再び怒りが湧いて来た。
 しかも本件発明はお客様の重要技術分野(実際この技術分野でライセンスを行っている)であることは本件が特許庁に係属しているときから知っていた。ならば訴訟提起を勧めるしかない!
 しかしそこでまた悩んでしまう。「成功する可能性はどの程度あるか?」と言われても「100%取消判決が得られる」とは言えないし、「わからない」では困るし。何より訴訟経験のない私が可能性について答えてよいのか? やはり相談しないとダメかなぁ。

回答期限は金曜日まで。もう少し悩んでみるとするか。

想定外の業務-特許や商標以外の弁理士の仕事-

 皆さんは、「弁理士」と聞いて、何を思い出すだろうか? 恐らくほとんどの人が、「特許」という言葉を思い浮かべるのではないだろうか。あと知財(知的財産Intelectual properties)の業務にある程度通じている方は、「商標」とか「意匠」を思い浮かべるだろうか。
 実は弁理士の専権業務というのは、特許(実用新案)、意匠、商標の代理業務以外にもあるのである。

弁理士法4条3項は、弁理士の専権業務について以下のように規定している。

3  弁理士は、前二項に規定する業務のほか、弁理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物に関する権利若しくは技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約の締結の代理若しくは媒介を行い、若しくはこれらに関する相談に応じ、又は外国の行政官庁若しくはこれに準ずる機関に対する特許、実用新案、意匠若しくは商標に関する権利に関する手続(日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有する者が行うものに限る。)に関する資料の作成その他の事務を行うことを業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。

日本語としてかなり読みにくいが、下線部の業務は以下のように整理できる。
1.
(1)特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物に関する権利
(2)技術上の秘密の売買契約
(3)通常実施権の許諾に関する契約その他の契約
の締結/媒介、
2.上記(1)~(3)に関する相談

である。
 で、今回は2の業務を行った話。

 ある木曜日の昼下がり。いつもよりは少し余裕があったとはいえ、二女の入学式の日に休みをとることを予定していた私は処理の前倒しに追われていた。
 そんな中、事務管理の同僚が慌てた表情で私のところにやってきた。どうしたのか、と尋ねると、彼は申し訳なさそうに、「米国の代理人から、著作権、特許権、営業秘密の取り扱いについて質問が来たのですが、上司も含めて忙しくて回答できないというので(ただ著作権だけは、同期合格の商標担当弁理士が引き受けてくれた)、なおすずかけさんにお願いできませんか?」と言った。
 誰もやれないというのであれば仕方がないと思い引き受けることにして、彼にその旨伝えた。彼は安堵した表情を見せた後に、以下のようなやり取りがあった。
彼「で、期限なんですが、このメールを受け取ってから18時間以内ということなので、よろしくお願いします」
私「で、そのメールっていつ来たの?」
彼「日本時間で午前2時です」
私「えぇ!?」
彼「すいません。午後8時までには先方にメールで回答しなくてはなりません。どうぞよろしくお願いいたします」
(ちなみにこの話が私のところに来たときには、午後2時を過ぎていた)

私はそれまで取りかかっていたすべての仕事の包袋を片付け、件の仕事に取りかかった。

質問は以下の4つである。
米国企業と日本企業が共同開発、又は米国企業が開発したものを日本企業へライセンスする際に、
1.著作権、特許権、営業秘密は共有できるのか?
2.著作権、特許権、営業秘密のライセンスの際の留意事項はあるか?
3.破産したら著作権、特許権、営業秘密の所有権はどうなるのか?
4.破産したら著作権、特許権、営業秘密のライセンス契約はどうなるのか?

というものだった。
 これ以上の具体的情報は何も知らされていないので、知財相談の一種に過ぎないが、まさか権利化後のことや特定不正競争のことについて「専門家」として答えなければならない事態が生じるとは思わなかったのでかなり慌てた。
 2については前職で契約業務を担当していた同僚に聞いてなんとか回答を作った。上司は忙しそうだったので、氏の手があくまで自分たちでやれるところまでやろうということで、著作権を担当した同僚と打ち合わせをした。
 19時になり、上司が、見せてくれというので英文の草案を見せた。内容は悪くないと言われホッとしたらすぐ、「それにしてもこの英語はわかりにくいなぁ」と眉間にしわを寄せた。スイマセン...
 そんなこんなで19:45に上司のOKをもらい、最終回答文を完成させ、事務管理の同僚に渡した。振り返ると大した仕事ではなかったが、突然の内容であることと、あまりの短納期の仕事でかなり焦った。
 後日、件の事務管理の同僚が私のところへやってきた。曰く「先日の件ですが、何時間かかりましたか? かかった時間で相手に費用請求しますので」とのことだった。
 正直に要した時間を答えた後、一体いくら請求するのか? と聞いたら、彼は「○×円くらいです」と答えた(知りたい方はリアルに会ったときにでもお尋ねください)。時間と手間を要したとはいえ、無料法律相談の延長に過ぎないのにそれだけもらえるのかと思った。特定不正競争についてももう一度勉強しなければと思った(特定心外訴訟代理人試験受けた方がいいのかな?)。


(お客様が放棄しない限り)あきらめてはダメ!

 少し古い話だけど、一度はさじを投げた事件が見事特許査定になった話を。
 本件は、外国での特許出願に基づく優先権主張を伴って日本国特許庁へ出願された事件だった(業界では、「パリルート」と呼ばれる。外国語特許出願は「PCT(ルート)」と呼ばれる)(以降、本件と略記)。ちなみに本件のような外国の出願人が日本に出願する事件は、「外内事件」と呼ばれる。
 本件は、以下のような経過を経た。

1.進歩性違反(29条2項)、記載不備(36条6項2号)の拒絶理由通知(しかも36条については誤訳による)
2.1の拒絶理由を解消しようとして補正したら、その補正が新規事項の追加(17条の2第3項)に該当するとし、しかもその補正も不明確(36条6項2号)と最後の拒絶理由通知
3.2の拒絶理由を解消しようとして補正したが、補正しても特許できないとして補正却下(17条の2第6項)され、同時に拒絶査定
4.審判請求+補正。1~3の拒絶理由が全て解消されたが、記載不備(36条6項2号)の拒絶理由通知
5.4の拒絶理由が解消され特許査定

 外内事件を担当したことのあるかたならピンとくるのではないかと思うが、1の誤訳による記載不備の拒絶理由を解消しようとして補正した結果、その補正が、出願時の明細書等に記載されていない事項だからダメと言われたら、大概はダメとしたものである(外国語特許出願や外国語書面出願であれば、誤訳訂正書を使えるが、本件は、優先権を伴っているが、あくまで通常の国内出願)。そんなわけで拒絶査定されたときは、「もう手は尽くしましたが残念ながら拒絶査定されました」とコメントしたが、お客様である出願人は諦めなかった。しかも諦めなかっただけでなく、「補正案を送ってくれ」という依頼まで出して来た!
 特許になる見込みが薄いと思っている私に補正案を作れと!? 私は、半分やけになって、「補正案を作るためには、以下のことが明らかになっていなければならないが、明細書等からでは読み取れない。つきましては以下の質問にお答えください」という英文の再コメントを送った。
 結果この再コメントが良かったようで、本件出願人は、これまでの指示とはうって変わって非常に詳細な回答を私に与えた。特許になる自信は未だ持てなかったが、検討に値する補正案は作れそうだ。そうして作った補正案は、本件出願人の了承を得た。そこで審判請求と同時に、上記補正案に基づいて補正したところ、一度の拒絶理由通知後に奇跡的に特許査定された。
 本件を通じて私は、「お客様があきらめない限り代理人である自分もあきらめない」という至極当然のことだけではなく、あきらめないためには、迷惑を顧みず(くらいの気持ちで)どんどん質問した方が良いということを学んだ。
 特に特許事務所勤務の弁理士は、「忙しいお客さんの手を煩わせるのは...」と質問を極力しなかったりする。確かにそれも一理あるが、適切な代理行為を行う上でどうしてもお客さんに質問しなくてはならないことはあるし、またお客さんも、その質問の回答がなければ適切な代理行為が行われないことを理解してくれれば、時間をとって丁寧に答えてくれるのである。

こうやって書くと当たり前のことしか書いていないが、自分の気持ちの変化(怒り、失望、喜び)があまりに大きかったのでblogに書いた。

100件目の教訓-ししさんに答える-

 先日(補助者として)中間処理を担当して初めて特許審決を受けた。その事件は以前の記事で紹介した件である。そしてその審決は、通算100件目の特許でもあったのだ。しかしこの記念すべき最初の特許審決&100件目の特許だが大きな課題の残るものだった。
 そこで今回は、本件の経過を簡単に紹介し、私がどのような失敗をしたのかを紹介する。
 本件は、職場の同僚(以前の記事で登場したA氏)が出願担当していたが、A氏の負担が大きすぎるということで、私に担当変更された。
 新規性(特許法29条1項3号)と進歩性(同29条2項)が通知され、前者は解消されたが後者が残っているとして拒絶査定され、審判請求(+補正)もした(同121条1項+17条の2第1項第4号)が、前置審査(同162条)により特許できない旨の報告が特許庁長官にされた(同164条3項)。その後審判長は、上記報告を添付した上で審尋した(同134条4項)(ちなみに条文上審尋は「できる」という裁量規定だが、現在の特許庁の運用は、原則審尋を行うこととしている)。
 本件は在外者による出願だったので、上記報告を英訳して、上記報告は本願発明の誤解に基づくものである旨のコメントと共に当該在外者(顧客)に送った。すると当該顧客は、怒りを必死に抑えているのがよくわかる回答書案を送ってきた(このとき補正は必要なしと明記されていた)。そこで上記回答書案に基づき、審尋回答書を作成し、本件審判長へ提出した。
 数日後本件審判長から電話。「上記報告の特許できない理由は解消されそうだが、回答書に従って本願発明を解釈すると新たな拒絶理由が発生する」とのことだった。具体的には、1)引用発明との差異があると述べているが、そのように解釈すると、どうやって本願発明が実施できるのか明細書の記載からでは理解できない(同36条4項1号違反)、2)もし明細書の記載に基づいて本願発明を実施すると、引用発明から容易に想到できる発明と解される(同29条2項違反)とのことだった。
 この以降は、以前の記事をご覧いただきたいのだが、本件では、出願人のみならず私も補正することなく29条2項違反は解消すると考えていた。その理由は、出願人のみならず私も、クレームに記載された発明は広い技術範囲を有するのに、それよりも狭い実施例のレベルで本願発明を理解していたからである。言うまでもないことだが、クレームに記載された発明は、実施例に記載された発明を含むが、その実施例に記載された発明に限定される訳ではない。そのような限定解釈をしてもらうためには、限定する補正が必要なのだ。実務家として当たり前のことなのだが、審査→審判とステージが進み、代理人として発明をより深く理解して行くことでこのような過ちを犯してしまった。
 という訳で、私のような失敗をしないように、弊所の幹部の1人で特許庁OBの者が言っていた言葉を紹介しておく。

「出願人や代理人は実施例のレベルで本願発明を理解しているかもしれないが、審査官は基本的にクレームだけを見て本願発明を認定する」

というわけであまり喜べない100件目の特許だった。
 

報われた?

 現在審判係属中の事件について、当該審判長から補正案を提出するように命じられていた件について補正案を提出したところ電話があった。この内容で特許審決出せると当該審判合議体が判断したとのことだった。あとは拒絶理由通知(特許法159条2項で準用する50条)を待って、その補正案の内容で手続補正書(同17条の2第1項)を提出すれば特許審決が得られる。
 本件は、在職者が出願担当した後に、その担当者の負担が大きくなりすぎて遅延が生じたため、負担軽減の一環として私に担当変更された事件だった。審査官に完全に本願発明の内容を誤解されて「特許できない」旨の報告書(同164条3項)が作成されたときは、マジ切れしそうになったが、それも今となっては懐かしく思える(それだけ時間がかかった)。
 電話口でそんなことを思い出していたら、最後に当該審判長が、「それにしてもよくこの内容で補正できましたね。大変だったでしょう?」と言われた。当方は、それ以前に受けた当該審判長からの、「補正すれば特許(審決)できそうですから以下の事項(と具体的な事項を指摘してくれた)に留意して補正案を(当該審判長へ)送ってください」と電話があったから考えたのだが...もしかして、「この明細書の内容ではダメだけど、審尋(同134条4項)に対する回答書も提出した訳だから、機会を与えてやるか」とでも思ったのだろうか?

最後のねぎらいの言葉はなんとも不思議だった。
プロフィール

なおすずかけ(「すずかけ国際特許事務所」とは一切関係ありません)

Author:なおすずかけ(「すずかけ国際特許事務所」とは一切関係ありません)
東京都在住のアラフォーです。
2009年弁理士試験に最終合格し、2010年4月に弁理士登録しました。現在東京都内の特許事務所に勤務しています。
家族構成は、妻と娘2人(小学4年生と1年生)。
趣味は囲碁(WINGで3k。一般的な日本の碁会所だと4段くらい?)

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
ブログ村バナー(クリックお願いします)
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR