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夏休みの私の宿題〜川内原発審査案に関するパブリックコメント〜

現在夏休み中の子供達には結構な夏休みの宿題があるが、私にも一つだけ宿題があった。
それは川内原発の再稼働に関する審査書案に関するパブリックコメント(正確には「九州電力株式会社川内原子力発電所1号炉及び2号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集について」)を作成して送ることである。
 上記リンク先にある審査書案は正直言って隅から隅まで読む気には到底なれないが、自分なりに気になる点に着目して読んで以下のようなパブコメを作成した。
 着目すべきは、解析にあたって設定されている条件である。これらの条件の中には福島第一原発事故の教訓が全く反映されていないものがあることがわかった。

では以下の通り紹介する。

(ここから)
101ページ、3-10 安全施設 1.静的機器の多重性について

復旧作業を約3日としているが福島第一原発事故の話を見聞するとそれで充分とは思えない(もし3日で普及していれば爆発していなかったのではないでしょうか)。つまり福島第一原発事故の反省に立つというのであればもっと長い復旧時間をとるべき。

142ページ、4-1.2.1.4 原子炉格納容器の除熱効機能喪失 (2)解析手法および結果、及び不確かなの影響評価 C.事故条件について

-破断口径が2inch(約2cm)、4inch(約4cm)、6inch(約6cm)の中で4inchが感度解析の点で一番厳しいとしているがそれは本当なのか? 口径が大きければ大きいほど冷却材の流出は大きい訳だから、6inch(約6cm)が最も厳しい条件に思える。もし4inchが感度解析の点で一番厳しいとするにはその理由が明確にされなければ信頼性を持ち得ないのではないか?
-外部電源はあるものとしているが、福島第一原発事故では外部電源がなくなったことを考慮すると、この条件及びこの条件によって得られる結果は、福島第一原発事故の反省に立ったものとはとても言えない。外部電源のない条件の計算も行うべき(実際使用済み燃料貯蔵槽における燃料損傷防止対策では考慮されている)。

190ページ、4-1.2.2.4 原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用 2.解析結果について

事象発生から約1.5時間で圧力容器が破損するほどの異常事象(原子力百科事典によるとPWRの圧力容器での通常の運転条件約325℃、約15.4MPaを大幅に超える
状態)が起こってから、0.262MPaで約122℃に落ち着くまでの時間が一切明らかにされていない。
 格納容器の容積が圧力容器の容積よりも大きいからとしているが、容積の分の余裕(2桁程度?)でどの程度の時間で収束させることができるのか明らかではない。
 しかも圧力容器の材質は頑丈な鋼鉄製であるが、格納容器はコンクリート製であることを考えると、圧力容器を破損させるような状態に格納容器が耐えられるとは思えない。

206ページ、4-1.2.3 使用済み燃料貯蔵槽における燃料損傷防止対策 (2)解析手法及び結果、不確かさへの影響評価

d.操作条件について

対応要員の参集に約1時間、ポンプや発電機の運搬、設置等に約5時間20分要するとしているが、福島第一原発事故ではそれよりも大幅に時間がかかっていることを考慮するとこの設定は甘いと言わざるを得ない。福島第一原発事故の教訓が全く反映されていない。

2解析結果について

「事故発生後、使用済燃料ピット水位が放射線の遮蔽を維持できる最低水位まで低下するまでの時間は約 2.4 日」としているがどのような条件で漏れるのか明らかにされていない。そのような条件(態様)を明確にすることなく数値だけ仮定しても全く意味がない。

以上。
(ここまで)

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原発ロボットは不要ですか?

「廃棄された原発無人ロボット 東電など「活用場面ない」
原発事故での使用を想定し、国の予算30億円で開発・製造された遠隔操作ロボットが、東京電力などが「活用場面はほとんどない」と判断したために実用化されなかったことが分かった。だが、福島第一原発の事故では、人が入れないほど放射線量が高い場所での作業に米国製ロボットが投入される事態に。事故の想定の甘さが、ロボット開発でも浮き彫りになった。(朝日新聞5/14夕刊より)

 これを読んで学部4年になる前の春休みに学科主催の見学旅行で日立製作所に見学に行ったことを思い出した。
 日立製作所は、放射線医療装置、制御棒を作っている工場などを見せてくれたが、一番印象に残っていたのは、原子炉の点検用ロボットの開発だった。説明したくれた技術者は、原子炉の定期点検でも高放射線量の場所があるので、労働者の被曝を減らす為にもロボットを用いるべきだと考えていると言った。
 色々興味があったので、質問してみたが、その技術者は、現在の原発の安全性には改善の余地があり、安全性を高める為にもこのようなロボットで作業できることを目指していると結んだ。
 こういう原発製造メーカーの地道な努力は無になったのかと思い、猛烈に腹が立った(しかもこの30億円は国民の血税である! 30億円をどぶに捨てて、なお今回の事故で新たな負担を求めようとしている)。
 東電は「原発は安全です」と一般の人に説明しているうちに、自分も安全だと思うようになり、危機管理がおろそかになったのだろう。つまりは自分が他人についた嘘によって自分自身までだまされていたということで、まるでイソップ童話の世界である。

腹も立ったが、同時にむなしくもなる記事だった。

崩壊系列と放射線被曝の態様

前回の記事で「半減期」について書いた。今回は崩壊系列と放射線被曝の態様について書く。

 前回の記事で、放射性物質である核分裂生成物は放射壊変によって放射線を発生させ、その放射線を浴びた状態が被曝である。
 この放射壊変にはいくつかの種類があり、それらは発生させる放射線の種類で以下のように大別される。ここでの説明は多少正確さを欠くことを予めお断りしておく。

α崩壊:これはα線を発生させながら安定した核になる放射壊変である
β崩壊:これはβ線を発生させながら安定した核になる放射壊変である
γ崩壊:これはγ線を発生させながら安定した核になる放射壊変である

ただこの説明では放射線のことを何も知らない人にとっては何の説明にもなっていない。そこでα線、β線、γ線について説明する。

α線:簡単に言えばHeイオンである(注)。電離作用が大きいので浴びると大変なことになるが、空気中を5cm程度しか飛ばず、しかも紙1枚で遮蔽できる。
β線:簡単に言えば電子線である。α線ほどは電離作用は大きくないが、その分飛程は長い。プラスチック板で遮蔽できる。
γ線:簡単に言えば波長の短い電磁波である。発生の仕方が以外はX線と同様である。透過力が大きいので密度の大きな金属(鉛等)で遮蔽する必要がある。

ここまで書いてお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、放射線源がどこにあるかが分かっていればα線とβ線はそれほど怖いものではない。なぜなら放射線防護にとって重要な、距離と遮蔽を簡単に確保できるからである。事実放射線を業務で扱う人はγ線(X線)の取り扱いに十分注意を払うように教えられる。

しかし今回のような原発事故の場合は別である。なぜなら(弱いとはいえ)線源である放射性物質が飛散してどこにあるか分からず、しかも口に入ったり、呼吸によって体内に取り入れられる恐れがあるからである。

よくTVや新聞のコメンテーターが、「今回検出された放射線量は、X年間でレントゲン撮影(CTスキャン)1回分です」などという説明をよくしているが、これは自身の外に線源が存在する場合の被曝(外部被曝)についてはある程度妥当性のある議論だが、放射性物質を体内に取り込むことによる被曝(内部被曝)に対してはあまり説得力のある説明ではない。

 今回の事故において注意すべきは内部被曝である。そして内部被曝で生じた事態は相当の時間が経過してから起こるだろうから(すぐに症状が現れる(即発性)ほどの被曝量でもないから)、国や東電の責任を問うことはほとんど不可能と考えていい。
 自分自身で情報にあたって備えをすることが肝要である。呼吸であれば外出時はマスク(少し湿らせると良いと思う)をした方が良い。食物からの摂取については、きちんと放射線量の情報を調べておき、まずそうなものは食べないことである。

(注)高校の化学の知識のある方の中にはHeがイオンを作るのか?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれないが、Heはイオンを「作りにくい」(第1イオン化エネルギーが一番大きい)が、第1イオン化エネルギー以上のエネルギーが付与されればイオンを生成する。

半減期

前回の記事で「放射線」と「放射性物質」について書いた今回は「半減期」について書く。

半減期とは、元の放射性核種の半分が放射改変する期間を言う。
原子炉内での核分裂で生じた核分裂生成物について言えば、核分裂生成物は、放射線を発生することで安定な核種に変換する(放射改変)するわけだが、その核分裂生成物の半数が放射壊変するまでの期間が半減期である。

上の説明でお気づきのかたもいるかと思うが、半減期が長ければそれだけ長いこと放射線が長く放出され続けるし、半減期が短ければ短い期間しか放射線は放出されない。このことは、半減期の短いものであれば流通する食品に付着しても消費者の元に届く頃には安定な状態になっているし、半減期の長いものであれば依然として放射壊変を続けることで放射線を放出していることを意味する。

このように、放射性物質による被曝の影響を考慮する際には、その放射性物質の半減期を知っていることが重要となる。

ウラン(又はプルトニウム)の核分裂反応によって主な核分裂生成物の半減期はwikipediaに紹介されているので各自参考にされたし。

http://ja.wikipedia.org/wiki/核分裂反応

あと放射線被曝の影響を考慮する上では放射線の種類と被曝の態様も考慮する必要があるが、これは次回に。

放射線と放射性物質

 福島第一原発は、依然として深刻だが、色々な情報に当たってみた感じでは、チェルノブイリ事故のような事態に至る危険性は非常に低いと感じた。
 しかしチェルノブイリ事故のような事態に至らなくても、今福島第一原発で何が起こっているのかを把握し、そして自分たちは何をすれば良いのかを考えることは依然として必要だ。
 そこで今回は、これまで職場内で受けた質問を基に、一般の人が誤解しやすい「放射線」と「放射性物質」について書くことにする。
 放射線と放射性物質の定義を、辞書的に書くと、以下のようになる。
放射線:電離作用を有するほどのエネルギーの電磁波又は粒子線
放射性物質:放射線を発生させる物質

 放射線が人体に照射されると、その人体で電離作用が生じる。具体的にはその放射線が人体の一部にエネルギーを与えることによって、その人体の一部を構成する原子はイオンと電子に分離する。そのような分離が、細胞の損傷、破壊等を起こすことで癌、不妊、最悪の場合は死を引き起こす。
 放射性物質は、不安定な状態(エネルギーの高い状態)から安定な状態(エネルギーの低い状態)になろうとする際に、放射線を放出する(注1)。
 ではこのような事態と原発とはどのように関連するのかを理解するため、原発でどのようなことが起こっているのかを説明する。

 原子炉の中では、ウラン(又はプルトニウム)に中性子が衝突することで核分裂が生じる。この核分裂の際に発生するエネルギーによって水を蒸気に変えて、その蒸気でタービンを回すことで発電が行われている。
 この核分裂の際には、エネルギーだけではなく、核分裂生成物も生成され、これは通常放射性物質である(故に「死の灰」とも呼ばれる)。今回の事故で問題になっているのは、まさにこの放射性物質である核分裂生成物が大気中に放出されていることである。

 ところで放射線から身を守る際には、(1)時間、(2)遮蔽、(3)距離が重要である。(1)は放射線によって被曝される時間を短くすることで、(2)は放射線源と自分との間に所謂楯となるものを用意すること(典型的には建物の壁。だから屋内退避は有効なのである)で、(3)は放射線源から離れることである(放射線が及ぼす影響は距離の2乗に反比例するから)。
 ここで(3)について何度か聞かれたのは、「東京から福島は200km以上離れているが、これは十分なのか?」という質問である。
 この答えは、福島第一原発を発生源とする放射線を心配する必要はないが(注2)、福島第一原発を発生源とする放射性物質が東京まで飛来する可能性は十分あるので、その放射性物質からの放射線に気をつける必要はあるかもしれない(放射線量を考慮した上で)。
 そこで次に重要なのは「半減期」であるが、これは次回書くことにする。

(注1)エネルギー保存則が成立している。つまり「不安定な状態」のエネルギーは、「安定な状態」のエネルギーと放射線の持つエネルギーとの和に等しい。
(注2)その意味で1999年に東海村で起こった臨界事故は首都圏へ及ぼす影響はそれほど大きくなかった。

プロフィール

なおすずかけ(「すずかけ国際特許事務所」とは一切関係ありません)

Author:なおすずかけ(「すずかけ国際特許事務所」とは一切関係ありません)
東京都在住のアラフォーです。
2009年弁理士試験に最終合格し、2010年4月に弁理士登録しました。現在東京都内の特許事務所に勤務しています。
家族構成は、妻と娘2人(小学4年生と1年生)。
趣味は囲碁(WINGで3k。一般的な日本の碁会所だと4段くらい?)

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