意匠の利用について-cof先生に答える(2)
これは題名通り前回の続きである。
先の記事では、ある登録意匠を利用する他の意匠の実施は意匠法23条違反の意匠権侵害ではないという主張を展開した。
しかしこのような登録意匠を利用する他の意匠の実施が許されてはならない(意匠権侵害とされるべき)であるとは私も異論はない。なぜなら一種の模倣であるからである。では23条違反の意匠権侵害ではないのならどのようして、そのような意匠を意匠権侵害とすべきなのか? 今回はそれについて学習机事件を紹介しながら主張、検討する。
学習机事件は、以下のように判示する。
「意匠法第二六条は登録意匠相互間の利用関係について規定するが、意匠の利用関係のみについていえば、他の登録意匠を利用する意匠はそれ自体必ずしも意匠登録を受けている意匠である必要はなく、意匠の利用関係は登録意匠と未登録意匠との間にも成立するものであり、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した未登録意匠の実施が、他人の当該意匠権の侵害を構成することは勿論である。」
これは26条を論理解釈していることに注意して欲しい。その論理解釈を行うために、上記引用個所は、意匠の利用態様にのみ注目し、意匠の利用が利用者/被利用者の権利関係に関係なく成立すると判示している。
具体的には、
利用A:ある登録意匠と、その登録意匠を利用する未登録意匠との関係
利用B:ある登録意匠と、その登録意匠を利用する他の登録意匠との関係
とすると、学習机事件の判決は、利用A,Bともに意匠権侵害と判示している。意匠法26条を文理解釈すると利用Aのみが該当することにながが、学習机事件では、論理解釈(拡張解釈)によって、利用Bも該当すると判示していることに注意して欲しい。
先に引用した箇所に続いて、学習机事件の判決は、利用Aの場合であれば、自己の登録意匠の実施に該当するという抗弁の制限について以下のように判示している。
「ところが、意匠権者は登録意匠及びこれに類似する意匠の実施を有する権利を専有する(意匠法第二三条)ところから、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した意匠が偶々自己の登録意匠又はこれに類似する意匠である場合には、利用された側の意匠権者の独占的排他権と利用する側の意匠権者の実施権とが衝突するため、両者の関係を調整する必要がある。意匠法第二六条はかかる場合双方の登録意匠の出願の先後関係により先願の権利を優先せしめ、後願の登録意匠又はこれに類似する意匠が先願の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用するものであるときは、後願にかかる意匠権の実施権をもつて先願にかかる意匠権の排他権に対抗しえないこととしたのである。」
特に「偶々」という語句に注意して欲しい。これはまさに利用Aも利用Bも意匠権侵害を構成し、偶然その事件が利用Aに該当する場合には、先願優位の原則に従って、後願意匠権者の実施権を制限するということである。
以上より、上記判示事項をまとめると以下のようになります。
1.利用Aの取り扱い
ある登録意匠に類似していないので23条違反ではないが、利用関係が成立しているので意匠権侵害を構成する。利用する意匠を実施する者はその利用する意匠を実施する権原を有するが、それは26条の規定により制限される。
2.利用Bの取り扱い
ある登録意匠に類似していないので23条違反ではないが、利用関係が成立しているので意匠権侵害を構成する。如何なる正当権原もないので抗弁の余地もない。
つまり利用Bの場合、文理解釈に基づいて26条が権利調整規定としての意味<しか>持たないとするのであれば利用Bは非侵害になる(このとき、ある登録意匠と、その登録意匠とが全体観察によって類否判断されていることに留意)。そして利用Bも23条で処理しようとすると、分離観察に頼るしかないことになるが、意匠の類否における分離観察については、司法は一貫して否定している(前回の記事参照のこと)。そして学習机事件は、分離観察は意匠の利用関係の成否を検討する上では妥当として以下のように判示している。
「被告は、被告意匠は書架付学習机として一体不可分の意匠であるから、机部分の意匠と書架部分の意匠とが各独立して存在するものではなく、机部分の意匠を全体から分離して意匠の利用の有無を論ずることは意匠の本質を誤るものであつて許されないと主張する。しかし、右主張は意匠の類否の問題と意匠の利用の問題とを混同するものというべきである。すなわち、意匠は、その全体から一個の美感が生ずるものであつて、意匠の類否は結局類似した美感を与えるか否かにかかつているから、類否の判断にあたつては意匠の全体を相互に比較すべきことはいうまでもない。これに反して、意匠の利用関係の有無は、双方の意匠が全体観察においては非類似であることを承認しつつ、一方の意匠中に他の登録意匠の全部が包含されているか否かを問題とするものであるから、その判断は、一個の意匠を構成する一部が登録意匠全部と同一又は類似であるかを検討することによつてなされるべきことはむしろ当然である。」
以上をまとめると、以下の通り。
1.ある登録意匠を利用する意匠の実施は、その登録意匠と、その利用する意匠とが、全体観察による類否判断の結果、非類似と判断されるので、23条違反の意匠権侵害が成立しない
2.意匠法26条は、拡張解釈されることによって、(i)利用する意匠の登録の有無に関係なく、登録意匠を利用する意匠の実施が意匠権侵害を構成する、(ii)利用する意匠が登録意匠である場合には、先願優位の原則に従って、「自己の登録意匠の実施(又はその意匠権に基づく実施権に基づく実施)」を制限する旨規定している。
先の記事では、ある登録意匠を利用する他の意匠の実施は意匠法23条違反の意匠権侵害ではないという主張を展開した。
しかしこのような登録意匠を利用する他の意匠の実施が許されてはならない(意匠権侵害とされるべき)であるとは私も異論はない。なぜなら一種の模倣であるからである。では23条違反の意匠権侵害ではないのならどのようして、そのような意匠を意匠権侵害とすべきなのか? 今回はそれについて学習机事件を紹介しながら主張、検討する。
学習机事件は、以下のように判示する。
「意匠法第二六条は登録意匠相互間の利用関係について規定するが、意匠の利用関係のみについていえば、他の登録意匠を利用する意匠はそれ自体必ずしも意匠登録を受けている意匠である必要はなく、意匠の利用関係は登録意匠と未登録意匠との間にも成立するものであり、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した未登録意匠の実施が、他人の当該意匠権の侵害を構成することは勿論である。」
これは26条を論理解釈していることに注意して欲しい。その論理解釈を行うために、上記引用個所は、意匠の利用態様にのみ注目し、意匠の利用が利用者/被利用者の権利関係に関係なく成立すると判示している。
具体的には、
利用A:ある登録意匠と、その登録意匠を利用する未登録意匠との関係
利用B:ある登録意匠と、その登録意匠を利用する他の登録意匠との関係
とすると、学習机事件の判決は、利用A,Bともに意匠権侵害と判示している。意匠法26条を文理解釈すると利用Aのみが該当することにながが、学習机事件では、論理解釈(拡張解釈)によって、利用Bも該当すると判示していることに注意して欲しい。
先に引用した箇所に続いて、学習机事件の判決は、利用Aの場合であれば、自己の登録意匠の実施に該当するという抗弁の制限について以下のように判示している。
「ところが、意匠権者は登録意匠及びこれに類似する意匠の実施を有する権利を専有する(意匠法第二三条)ところから、他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した意匠が偶々自己の登録意匠又はこれに類似する意匠である場合には、利用された側の意匠権者の独占的排他権と利用する側の意匠権者の実施権とが衝突するため、両者の関係を調整する必要がある。意匠法第二六条はかかる場合双方の登録意匠の出願の先後関係により先願の権利を優先せしめ、後願の登録意匠又はこれに類似する意匠が先願の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用するものであるときは、後願にかかる意匠権の実施権をもつて先願にかかる意匠権の排他権に対抗しえないこととしたのである。」
特に「偶々」という語句に注意して欲しい。これはまさに利用Aも利用Bも意匠権侵害を構成し、偶然その事件が利用Aに該当する場合には、先願優位の原則に従って、後願意匠権者の実施権を制限するということである。
以上より、上記判示事項をまとめると以下のようになります。
1.利用Aの取り扱い
ある登録意匠に類似していないので23条違反ではないが、利用関係が成立しているので意匠権侵害を構成する。利用する意匠を実施する者はその利用する意匠を実施する権原を有するが、それは26条の規定により制限される。
2.利用Bの取り扱い
ある登録意匠に類似していないので23条違反ではないが、利用関係が成立しているので意匠権侵害を構成する。如何なる正当権原もないので抗弁の余地もない。
つまり利用Bの場合、文理解釈に基づいて26条が権利調整規定としての意味<しか>持たないとするのであれば利用Bは非侵害になる(このとき、ある登録意匠と、その登録意匠とが全体観察によって類否判断されていることに留意)。そして利用Bも23条で処理しようとすると、分離観察に頼るしかないことになるが、意匠の類否における分離観察については、司法は一貫して否定している(前回の記事参照のこと)。そして学習机事件は、分離観察は意匠の利用関係の成否を検討する上では妥当として以下のように判示している。
「被告は、被告意匠は書架付学習机として一体不可分の意匠であるから、机部分の意匠と書架部分の意匠とが各独立して存在するものではなく、机部分の意匠を全体から分離して意匠の利用の有無を論ずることは意匠の本質を誤るものであつて許されないと主張する。しかし、右主張は意匠の類否の問題と意匠の利用の問題とを混同するものというべきである。すなわち、意匠は、その全体から一個の美感が生ずるものであつて、意匠の類否は結局類似した美感を与えるか否かにかかつているから、類否の判断にあたつては意匠の全体を相互に比較すべきことはいうまでもない。これに反して、意匠の利用関係の有無は、双方の意匠が全体観察においては非類似であることを承認しつつ、一方の意匠中に他の登録意匠の全部が包含されているか否かを問題とするものであるから、その判断は、一個の意匠を構成する一部が登録意匠全部と同一又は類似であるかを検討することによつてなされるべきことはむしろ当然である。」
以上をまとめると、以下の通り。
1.ある登録意匠を利用する意匠の実施は、その登録意匠と、その利用する意匠とが、全体観察による類否判断の結果、非類似と判断されるので、23条違反の意匠権侵害が成立しない
2.意匠法26条は、拡張解釈されることによって、(i)利用する意匠の登録の有無に関係なく、登録意匠を利用する意匠の実施が意匠権侵害を構成する、(ii)利用する意匠が登録意匠である場合には、先願優位の原則に従って、「自己の登録意匠の実施(又はその意匠権に基づく実施権に基づく実施)」を制限する旨規定している。
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